ニュースやドラマで内視鏡視下手術の神の手を持つ医師や”ダヴィンチ”などのロボット手術、人工知能システム”ワトソン”をご覧になったことがあると思います。
最新の医療や外科手術では低侵襲であることが求められており、その技術開発も盛んに行われています。
低侵襲であることは、患者さんにとって大きなメリットがあり安全で、早い回復が見込まれます。
口腔外科手術や歯科治療においても低侵襲の技術は日々進歩しています。
日本口腔外科学会でも様々な話題が報告されましたので、ご紹介したいと思います。
Contents
内視鏡視下手術
消化管領域では皆さん1度は経験したことがあるのではないでしょうか。1949年日本での胃カメラの開発が今の内視鏡のもととなったそうです。
今では、内視鏡による早期発見、低侵襲の内視鏡手術と多くのがん治療においても内視鏡治療という選択肢が増えました。また、超拡大内視鏡の出現で病理組織診断に匹敵するような内視鏡観察(リアルタイムで核の異型を診察)が可能になっています。
また、脊髄領域などデリケートな部位においても内視鏡視下手術が行われています。
顎顔面口腔外科領域の内視鏡視下手術といえば、顎関節の関節鏡視下手術が30年前くらいから行われています。
最近では顎関節突起骨折の手術にも応用され、術後の顔面神経障害や開口障害、皮膚の瘢痕のリスクの低減やそれに伴う早期の社会復帰に大きな役割を果たしています。
また、顎変形症(外科的矯正手術)や上顎洞炎(副鼻腔炎)にも応用されています
デジタルテクノロジーを用いた先進医療
① 人工知能(AI)を用いた口腔粘膜疾患診断支援システム
口腔がんは他のがんに比べてすぐ見られる場所にあるため、早期発見しやすいにも関わらず、実際、医療機関受診時にはかなり進展した状態であることがしばしばあります。
初期の口腔がんは口内炎に似ている症状を示すこともあり、専門医にとってはその違いは明らかでも、専門医以外の医療者(一般歯科医、医師)による見過ごしの可能性があるのです。
そこで全国の施設から口腔内写真を提供してもらい、そのビッグデータを用いてDeep learning技術による口腔粘膜疾患診断のAIが開発されています。
現在のところ90%の精度ということですが、見過ごしによる放置が少なくなり、早期発見早期治療につながれば、大変有用なツールとなるでしょう。
さらに精度が上がることを期待したいと思います。
② ナビゲーションシステムを利用した下顎の手術
顎顔面口腔領域において様々手術(顎関節、顎変形、骨折、腫瘍切除、インプラント埋入など)でナビゲーション手術が重要な役割を担っています。
ナビゲーション手術では正確な位置を記録、再現することが重要ですが、下顎は動くため従来では顎間固定をするなど煩雑な準備が必要でした。そこでより簡便で正確性の高いスプリントを用いた方法が開発され、安全で確実な手術が実現できるようになりました。
③ 変形性顎関節症の診断における4DCTの応用
3次元のCTに時間軸を加えたのが4DCTです。
いろいろな角度から両側の顎関節の動きを同時に診ることができるので、病態や原因の評価にとても有用です。また、治療法を検討したり、治療後の状態を評価することにも役立ちます。
④ CT画像のMetal Artifact(MA)の低減
顎顔面口腔領域のCTでは、どうしてもお口の中に金属の冠や詰め物が入っているとその影響で、画像が乱れてその部分の診断が難しくなってしまいます。1枚ずつ範囲を指定してそのノイズを除去するのは大変繁雑な作業です。
そこでAIによる除去法を開発し、除去作業にかかる時間は数秒になったそうです。
画像診断におけるAI技術の進歩は凄まじいですね。
⑤ Virtual reality(VR)を用いた口腔外科外来手術の不安・疼痛の軽減
歯科治療や外来手術が好きな人っていませんよね。
患者さんの不安や恐怖は血圧や呼吸など様々な生体反応に影響します。そのため、従来は笑気吸入や安定剤の内服、静脈内鎮静法などによって対応してきました。
しかし、身体への影響を考えるとすべての患者さんに適用できるわけではありません。
もっと低侵襲で安全な方法としてヒーリング画像などを用いたVRを使用した報告がされています。
下顎の埋伏している親知らずの抜歯に使用し、有意に恐怖や不安を軽減し、患者さんの満足度も高かったそうです。海外の報告ではゲーム性を持たせた画像で除痛効果も報告されています。
今後、VRT視聴時の脳内メカニズムを解析し、不安恐怖を解消し、痛みをコントロールできる方法ができれば、歯科治療が嫌いな患者さんも安心して治療が受けられ、悪い口腔環境を放置することがなくなれば、素晴らしいことだと思います。
低侵襲ながん治療
がんの3大標準治療は外科手術、化学療法、放射線治療です。これらは直接がん細胞を取り去ったり、攻撃したりして身体の中にあるがんを減らすことを目的としています。
しかし、これらの治療法はがん細胞だけでなく、免疫細胞も含めた正常細胞にもダメージを与えることで患者さんを苦しめることがあります。
近赤外線免疫療法(光免疫療法)は免疫力を落とさずに、毒性のない化学物質を毒性のない光によってがん細胞上で活性化させることで、免疫細胞を含む正常細胞を傷つけずに、がん細胞のみを効果的に狙い撃ちをして免疫原性細胞死を起こさせます。また、壊したがん細胞に対する免疫を非常に効率よく誘導することでがん細胞を減らしながら、合理的に免疫力を強化して、短期間にがんを根治する方法です。
さらに1カ所だけ治療すれば、転移にも効果があり、再発も予防できることが動物実験で実証されています。
これが臨床的に応用されるようになれば、がん治療が大きく変わることと思います。
まだまだある低侵襲治療
一般の歯科治療いおいても、デジタル化は急速に進んでおり、被せ物(修復物、補綴物)の型取りをカメラを使ってデジタルでスキャンニングし、そのデータを基にコンピューターを使って被せ物の設計、製作(CAD/CAM)をすることが可能になっています。この技術は一部すでに保険適用もされています。
型取りが苦手(嘔吐反射)にとっては特にうれしいことですよね。
この技術は矯正治療や義歯治療にも使われています。
また、手術用具や器機においても、超音波メスなど安全確実な手術を支援する技術も開発されています。
まとめ
AIによって医師の診断時間は約80%削減できると言われています。
これにより今までにはなかった効率や水準が確保されると、ロボットなどの活用も含め、働き手不足、地域格差、技術格差がなくなり、誰でもどこでも安定した高水準の医療が受けられるようになります。
また、医療サイドにとっても負担や労力が軽減され、質の高い医療が提供できるようになります。
内視鏡で診た画像が、その場でAIにより診断され、ロボットアームを取り付け手術をする、そんな手術がもう実現しているのです。
しかしながら、データ化できない要素のあるため、最終的には医師の総合力、コミュニケーション力が重要であることには変わりありません。
低侵襲の先進医療はいかがだったでしょうか。
数年前までは夢のようだった医療が次々に実現してきています。
今後も患者さんにとって、安全確実で、優しい医療の発展に期待したいと思います。