顎関節症は名前こそ知られているものの、症状や治療法については詳しく知らない方が多いです。
顎関節症=顎が痛くなる病気、とは限りません。
また顎の健康が損なわれることは、体全体に様々な悪影響を及ぼします。
ここでは顎関節症という病気の症状や原因をご説明した上で、病院や家庭で行う治療法を紹介します。
Contents
顎関節症とは
顎関節症(がくかんせつしょう)とは顎の関節やそれに関連する筋肉(咀嚼筋)の病気の総称です。
世界共通の定義はなく、医師でも他の病気との判別が困難な点や潜在的な患者が相当数いると予測されることなどから、「日本人の○%が顎関節症です」といった表現はできません。
日本顎関節学会によると次のように定義されています。
“顎関節症とは、顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害または顎関節運動以上を主徴候とする慢性疾患の総括的診断名であり、その病態には咀嚼筋障害、関節包・靭帯障害、関節円盤障害、変形性関節症などが含まれる”
具体的には、
- 口が大きく開けられない(開口障害25mm未満)
- 安静時にも顎が痛む
- 顎を動かすと異常音がする(関節雑音)
- 顎の動きや咬み合わせに違和感がある(関節運動)
- その他顎周辺の関節が痛む
といった症状です。
顔の痛みや周辺の機能不全なども含めて鑑別され、頭痛や発熱、倦怠感、耳の詰まりといった症状も関連しています。自宅で安静にしているだけで自然に改善するケースから、外科的治療(手術)が必要なものまであります。
顎関節症の原因
顎関節症は生活習慣病として位置づけられており、精神的ストレスが発症に大きく関係していると言われています。
仕事や家庭における人間関係、ライフスタイルの変化などによるストレスが筋肉と血管を持続的に収縮させ、顎やその他部位に機能障害を起こすのです。
ストレスはブラキシズムも誘発します。
ブラキシズムとは歯ぎしりや歯を細かく振動させて鳴らす習癖(良くない癖)の総称で、咬合神経症とも呼ばれます。当然これらも顎や歯に負荷をかける行為であるため、顎関節症の原因です。
遺伝的・先天的側面からは、骨格や姿勢に異常が見られる場合もかかりやすいと言われています。
また、原因は性差にもあり「男性と比べると女性の方がかかりやすい」といった意見もあります。
ただ男女には生活環境や健康・病気に対する意識に違いがあることから、たとえば一般に健康への意識が高い女性の方が病院を受診する人の数が多いだけであり、受診せずに放置している潜在的な男性患者が相当数いる可能性も否定できません。
その他、ケガや事故での顎関節や靭帯の損傷も原因となり得ます。
まとめると性差を除いた4つが顎関節症の主な原因です。
- ストレス
- ブラキシズム
- 骨格・姿勢の異常
- ケガや事故での損傷
病院での治療法5つ
認知行動療法
カウンセリングをもとに顎関節症の原因となる習慣的な行動を探り、本人に自覚させることでその行動をストップさせる療法です。ブラキシズムなどの習癖がその代表例です。
医師からは、自分でコントロールできるようにノートやメモ帳に日記をつける習慣をつけたり壁や冷蔵庫にシールを貼って忘れないようにしたり、といったアドバイスがされます。
本人の意志が大きく影響する治療法です。
運動療法
口の開閉運動を繰り返し行うことにより改善を目指す治療法です。
自分で開閉させることができない場合は医師が手や器具などを使って補助します。
開かないという症状は中程度以上の状態ですので、一度に完全に治るケースは少ないです。
リハビリテーション的な側面もあることから、顎関節可動化訓練とも呼ばれます。
薬物療法
痛みや機能不全の元となる炎症を抑えるための非ステロイド系抗炎症薬や収縮・硬直した筋肉を緩める筋弛緩剤などが使用されます。
ストレスが主な原因と診断された場合は精神安定剤(抗不安剤)が処方され、薬の種類は豊富で症状によって判断されます。
いずれの薬でも眠気や倦怠感といった副作用を伴うことがあります。
スプリント療法
スプリントとは顎関節治療用のマウスピースのことで、歯列の片方全体を覆うことができる装具です。
スプリントは症状によって使われる種類が異なります。
例えば口を開閉するとカクカクと音が鳴る関節雑音の場合はリポジショニング型スプリント、顎や歯にかかる負担軽減や咬み合わせの安定が必要な場合はスタビライゼーション型スプリントとなります。
外科療法
先に挙げた4つの療法を約半年ほど続けても改善されない場合には、外科療法(手術)が行われることもあります。
その種類には、炎症や菌を取り除くため関節腔内を洗浄する関節腔内洗浄療法や顎骨のクッションの役割を果たす関節円盤を切除する治療、生理食塩水を流した顎関節に小さなカメラを入れて処置を行う関節鏡手術などがあります。
ただし外科療法が行われるのは顎関節症患者の5%未満と言われ、非常に稀なケースです。
家庭でできる治療法3つ
※ここで言う治療には「改善」の意味も含みます。
ストレスコントロール
ストレスが溜まると無意識のうちに歯を食いしばったり睡眠時に歯ぎしりをしたりする傾向が強くなります。
日常からストレス解消のためにセルフ管理を行うことが大切です。顎関節症の症状が出ていながらこれらの症状や癖が自覚できていない人は、家族や友人に尋ねてみるといいでしょう。
片方だけに負担をかけない
食事やガムを噛む時などに片方だけの歯で噛んでいる方が多いのですが、片方だけで噛むと噛んでいない方の歯(顎)に負担がかかります。
この状態が継続すると関節円盤の異常や筋肉の疲労による硬直が起こりやすくなるため、意識してバランスよく噛むことが重要です。
マッサージ
筋肉や血管が緊張して起こる顎関節症にはマッサージが有効です。
顎だけでなく、頬や首、肩をゆっくりと揉むと血行促進や自律神経を整えるなどの効果があります。
ただ揉んだ時に痛みやしびれがある場合は、炎症やその他異常を起こしている可能性があるので歯科医院を受診しましょう。
最後に
顎関節症そのものは死に至る、寝たきりになるなどの重大なリスクは限りなく少ないですが、その他血液やストレスに関わる様々な生活習慣病を引き起こす原因の1つになりかねません。
セルフケアは治療というよりもあくまで治療の補助的な役割だと考える必要があります。最も確実に予防・治療するためには、歯科医師など顎関節症のプロに相談することが必要です。