私たちが毎日楽しく会話をして、美味しく食事をするのに重要な役割を果たしている歯や口は、とても大切な器官の一つです。口腔内に疾患があれば会話が困難になる可能性や、栄養を十分に摂取することが困難になる可能性もあります。また、噛み合わせや歯並びが悪い状態であれば、良く噛むことができない状態になるので、消化器官に大きな負担がかかったり、バランスの悪い噛み合わせによって体全体が歪んでしまったりする可能性もあります。
このように口腔疾患が全身に悪影響を及ぼす可能性があることはもちろんですが、その逆で、全身疾患が口腔内に異常を起こす危険因子になるケースも多々あります。
そこで今回は、口腔内に異常を引き起こす可能性がある全身疾患について詳しくお伝えしたいと思います。
Contents
お口の状態は全身の健康のバロメーター
歯を失う原因になる代表的な疾患である歯周病は、全身疾患と深い関わりがあるということが明らかになっており、歯科医院での歯周病の治療が口腔の健康だけでなく、全身状態の健康を守ることに繋がると考えられています。
歯周病原性細菌によって歯周組織に炎症が起きると、歯周ポケットという溝が形成されます。歯周ポケットから体内に侵入した細菌そのものや細菌由来の病原因子に加え、炎症を起こしている部位で作られる物質の「サイトカイン」が歯肉の血管を通じて血液に流れ込んでしまいます。このサイトカインが口腔内だけでなく全身の組織や臓器に何らかの影響を与えると考えられており、さまざまな研究結果から歯周病が全身に影響を及ぼし、全身疾患を発症するリスクや進行を助長するリスク因子になることが明らかになっています。
歯周病は悪化すれば歯を失う原因になるだけでなく、放置すると場合によっては命に関わる危険性のある重篤な症状でもあります。単なる歯や口の中のトラブルに対する治療をするのではなく、全身の健康状態を考慮して生活の質を高めることが歯科医院の役割なのです。
口腔内に異常が出る全身疾患とは
先ほどお伝えしたように、歯周病が全身に悪影響を及ぼすことが分かっていますが、全身疾患によって口腔内に異常が現れる場合もあります。
糖尿病
糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが不足して、血糖値が異常に高くなる病気です。40代以上の10人に1人が罹患していると言われるほど、日本人の代表的な生活習慣病の一つとされています。
糖尿病になると口の中が乾燥しやすくなることによって口腔内の汚れが溜まり、口臭がきつくなります。また、乾燥に加えて唾液内の糖分濃度が高くなることにより、細菌に対する抵抗力や組織を修復する能力が低下し、歯周病になりやすく、治りにくくなります。
また、糖尿病患者の8割近くが歯周炎などを発症していると言われています。感染に対する抵抗力が低下している状態のため、歯周病から重症の感染症を引き起こす危険性もあります。
歯周病を治療することによって血糖値をコントロールしやすくなるとも言われているため、糖尿病を患っている人念入りに口腔内のケアを行い、口腔内を清潔に保つことが大切です。
メタボリックシンドローム
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に加えて高血糖・高血圧・脂質異常症のうち2つ以上の症状が一度に現れている状態を指します。
脂肪細胞が増え過ぎてしまうとさまざまなホルモンやサイトカインを過剰に分泌することが明らかになっており、代謝のバランスが乱れ、本来体に備わっているシステムが正常に機能しにくくなります。脂肪細胞から分泌されたサイトカインが血管を通ってお口に到達すると歯周病を進行させる可能性があります。
メタボリックシンドロームと歯周病は同時に進行する可能性があり、その結果として動脈硬化の進行が加速し、心筋梗塞や腎臓病で死亡するリスクが高まります。メタボリックシンドロームの予防は歯周病の予防に、歯周病の予防はメタボリックシンドロームの予防に大きく関わっているのです。
骨粗しょう症
骨粗しょう症は骨の代謝にかかわるエストロゲンというホルモンの分泌が低下することで発症し、全身の骨密度が低下して骨がもろくなる病気です。患者数は1000万人以上とも推定されていて、そのうちの90%以上が女性です。
骨粗しょう症は全身の骨がもろくなる病気であるため、当然歯を支えている骨ももろくなってしまいます。また、炎症を引き起こす物質が体内で作られるため、歯周炎の進行も早まると言われています。
シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は腺症状であるドライマウスやドライアイを主症状とし、腺外症状であるリウマチ性関節炎・全身性エリテマトーデス・進行性全身性硬化症や多発性筋炎などを合併する全身性疾患です。
ドライマウスは、唾液の分泌が低下して口の中がネバネバしたり、口臭が強くなったりする原因になります。口腔内の乾燥がひどくなると舌の表面のひび割れが発生し、痛みが起こることによって摂食障害が起きたり会話がしにくくなったりする場合もあります。
唾液の分泌量が低下すると、唾液本来の抗菌作用が発揮されず、歯周病にかかりやすくなったり虫歯が進行しやすくなったりする可能性もあります。
シェーグレン症候群は40歳以上の女性に多く発症しますが、原因は明らかになっておらず、自己免疫疾患の一つとされています。
まとめ
近年では、心臓疾患を初め多くの全身疾患の影響で口腔内にも症状が現れることが分かっており、口腔と全身は切っても切れない関係と言えます。
今回ご紹介したように、お口の中の状態は全身の健康を示すバロメーターでもあるため、歯科医院での定期検診は皆さんが思っている異常に重要であると言えます。定期検診で異常がないかを確認することは、歯を失うリスクを抑えるだけでなく、全身の健康を維持することにも繋がります。
「何かトラブルがあるから歯科医院に行く」という考えは捨て、「何もトラブルが起きていないことを確認するために歯科医院に行く」という習慣を身につけましょう。