身体の一部である歯は、お口の中の環境はもちろんのことですが、全身疾患とも深い関わりがあるということをご存知でしょうか。
近年は口腔環境と全身疾患との深い関係が重要視されており、全身疾患までを考慮した歯科治療を行っている歯科医院が多くなっています。
歯科医院の受診を検討している方の中にはざまな病気をお持ちの方、アレルギーをお持ちの方がいらっしゃるかと思います。持病がある方や現在かかっている病気がある場合には、さまざまな副作用やトラブルが発生する可能性があるので、必ず歯科医院で治療を受ける前に医師に申告しましょう。
今回は口腔環境と全身疾患の関係をお伝え致します。まずは口腔環境と全身疾患の深い関わりについてしっかりと把握することが、ご自身の口腔や全身の健康を守ることに繋がるのです。
Contents
歯は身体の一部
口腔と全身を切り離して考えてしまいやすいですが、あくまでも歯は身体の一部です。そのため歯科治療を受ける際にも全身の疾患や健康状態を考慮した上で行うことが重要です。
特に高血圧や骨粗しょう症などの全身疾患をお持ちの場合には危険性が伴いますので事前に医師に申告する必要があります。
全身疾患の中には免疫力を低下させたり、口腔疾患の治癒が遅くするものがあります。また、逆に歯周疾患が全身疾患を発生させる確率を高める原因となる可能性もあります。
特に口腔内の疾患である歯周病をそのまま放置してしまえば、心臓病や脳の血管障害、糖尿病などのさまざまな病気になりやすくなります。
口腔環境と密接な関わりのある全身疾患
今回は口腔環境と深い関わりがあり、特に注意して頂きたい全身疾患について詳しくお伝えしていきます。
脳卒中・脳梗塞
脳卒中と脳梗塞は動脈硬化により血液を送る血管が狭くなったり、塞がってしまうことによって死に至る病気です。
動脈硬化は不適切な食生活や運動不足、ストレスが溜まるなどの生活習慣が大きな要因とされていましたが、別の要因として歯周病原因菌などの細菌感染が要因となって引き起こされることも分かっています。
歯周病の方は歯周病でない方の2.8倍も脳卒中や脳梗塞になりやすいというデータもあります。
血圧、コレステロール、中性脂肪が高めという方は、脳卒中などの動脈疾患予防のためにも歯周病の予防や治療がより一層重要なものとなるのです。
脳梗塞などで薬を服用している場合は血を固まりにくくする薬を飲んでいる方が多く、抜歯や手術時には十分な注意が必要となります。
誤燕性肺炎
誤燕性肺炎は、食べ物や異物などが誤って気管や肺に入ってしまう病気です。
本来は肺や気管は、咳をすることによって異物が入らないように守ることができていますが、高齢の方の場合は機能や反射が低下していることによって、食べ物やお口の中の細菌が誤って食道ではなく気管に入ってしまいます。
誤燕性肺炎の原因となる細菌の多くは歯周病菌であり、それが増殖して誤燕性肺炎を引き起こしてしまいます。
骨粗しょう症
骨粗しょう症は全身の骨強度が低下し、骨がもろくなって骨折しやすくなる病気で、約90%が女性に起こると言われています。男性に比べて女性がなる可能性が高い理由は、閉経後に女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が低下することが骨代謝に深く関わっているからです。
エストロゲンの分泌量が低下すると全身の骨が脆くなってしまうと共に、歯を支える骨も脆くなってしまいます。また、エストロゲンの分泌量が低下すると歯肉では炎症を引き起こす物質が作られてしまうので歯周炎が加速してしまいます。
そのため閉経後の女性は歯周炎がなくてもエストロゲン減少により、歯周病にかかりやすく広がりやすいとされているのです。
骨粗しょう症の治療では、骨が弱くならないようにビスフォースボネート剤(BP剤)という薬を使う場合があります。このBP剤を服用すると、抜歯などの歯科治療を行うと顎の骨が死んでしまう「顎骨壊死」という副作用が出る可能性が報告されています。
全ての歯科治療で必ず問題が起きる訳ではなく、稀に起こる程度ですが必ず医師に確認しましょう。
心臓病
心臓の筋肉に栄養を供給している冠動脈系に狭窄や閉塞が生じ心筋への血行障害を起こしている状態を虚血性心疾患といいます。そして心筋細胞に壊死が見られる状態が心筋梗塞です。心筋細胞に壊死が見られない場合は狭心症と言います。
歯周病菌が作り出す物質が血液中に流れると、冠状動脈の壁を肥厚させ、血管が詰まり動脈硬化を引き起こすと考えられており、心筋梗塞や狭心症を引き起こす原因となります。
心筋梗塞や狭心症患者さんの場合、血栓が出来てしまわないように抗凝固薬を使用されているケースがあります。そのため抜歯など出血が伴う治療を行う場合には特に注意が必要です。
場合によっては薬の量を変更したり、止血処置が必要になることがあります。
糖尿病
血液中のブドウ糖を表す数値が「血糖値」で、その血糖値が高くなってしまう病気が糖尿病です。ブドウ糖はエネルギー源ですが、インスリンの働きが悪いためブドウ糖が有効に使えずに、利用されない糖分が血液中に溜まり、血管や神経に障害が出ます。
日本では50歳以上の15~20%もの方が糖尿病とされています。
糖尿病の方はそうでない方に比べると歯肉炎や歯周炎にかかっている方が多く、また歯周病になると糖尿病の症状が悪化するという関係も明らかになってきています。
歯周病の重症患者さんの場合、軽症の方に比べると、2年後に糖尿病が悪化している率が5倍高くなります。
糖尿病の方は、感染症にかかりやすく、傷が治りにくい、ストレスによって血糖値が変化しやすいという特徴があります。
そのため歯科治療による小さな刺激でもストレスを感じてしまい、血糖値が大きく変化してしまうことによって昏睡状態になることも考えられます。歯科治療で使う麻酔の中には、血糖値を上昇させる作用もあるので、必ず治療前に医師に確認しましょう。
まとめ
口腔内の環境が全身疾患を引き起こす原因を作ることがあれば、全身疾患が口腔内の健康を脅かすこともあります。
また、全身疾患をお持ちの方は歯科医師に申告することで安全に治療することができるので、歯科治療と全身疾患の関係を無視せず事前に申し出ましょう。
歯の健康や口腔内の健康を守ることで全身の健康を守ることができるということを肝に銘じ、今からしっかりと口腔内のケアをしましょう。