
厚生労働省の研究班の調査によれば、65歳以上の高齢者の認知症は2012年の時点で推計462万人と言われています。
そして数年以内に認知症になる可能性が高い、MCI(軽度認知障害)である認知症予備軍を合わせるとなんと800万人以上にも上るそうです。これは65歳以上の高齢者の4人に1人がすでに認知症を発症しているか、もしくは認知症予備軍であるということになります。
認知症は超高齢社会の日本において、誰の身に起きても不思議のない国民病のひとつと言っても過言ではありません。認知症になれば介護が必要になりますので、親の介護のために会社を辞めたり休む人がますます増加することになり、日本経済全体にとっても重大な問題の一つです。
そんな認知症と深い関わりがあるのは実は「歯」だということをみなさんご存知でしょうか。歯がなかったり、噛めなくなってしまうことで認知症の発症リスクが高まると言われているのです。
今回は認知症と歯の切っても切れない関係についてお伝え致します。ご家族に高齢者がいる方も、ご自身が認知症にならないか心配という方も是非参考にして下さい。
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認知症とは
誰でも加齢とともに物覚えが悪くなったり人の名前が思い出せなくなってしまうことがあります。こういった”物忘れ”は脳の老化によって起こるものです。人間のほとんどの活動をコントロールしている司令塔である脳が上手く働かなければ、精神活動や身体活動もスムーズに運ばなくなってしまうのです。
しかし認知症は、老化による物忘れとは異なり、さまざまな原因で脳の神経が壊れてしまうことで起こる症状や状態のことを言います。認知症が進行すれば次第に理解する能力や判断力がなくなり、社会生活だけでなく日常生活にまで支障がでてしまうことになります。
認知症のうちおよそ半数がアルツハイマー型認知症です。次に多いのがレビー小体型認知症、そして血管性認知症です。これらは三大認知症と呼ばれ、全体の85%を占めています。
認知症の症状があってももとの原因となった病気を治療することで治ることもありますが、明確に原因となる病気が分からないこともあるので日頃から認知症にならないように予防対策をすることが大切です。
歯と脳の関係
「歯がほとんどなく入れ歯も使用していない人」は、「歯が20本以上残っている人」に比べて認知症になる確率が1.9倍にもなると言われています。しかし「歯がほとんどないけれど入れ歯を使用している人」は、「歯がほとんどなく入れ歯も使用していない人」に比べると40%も認知症のリスクが低くなると言われています。
つまり歯がなくなってしまっても入れ歯などで物を噛むことができれば認知症の予防に繋がるということです。
どうしてここまで歯があるかないかということが認知症と関係しているのでしょうか。それは歯と脳の深い関係に秘密があります。
咀嚼によって脳が刺激される
歯の働きは食べ物を噛むという咀嚼機能だけではありません。物を噛む行為は咀嚼するのと同時に脳を刺激するということが分かっています。歯と歯を組み合わせたときの刺激は、歯の根元にある歯根膜というところから脳へと伝達され、その刺激は脳における感覚や記憶、運動や思考、意欲などを司っている部位の活発化に繋がる仕組みなのです。
毎日何気なく行っている咀嚼で脳が活発になるのであれば嬉しいことですが、そもそも脳が働かなければ咀嚼が行われず美味しいという味覚すら感じとることができなくなってしまうのです。咀嚼が十分にできないと脳の機能が低下するという相関関係は無視できません。
残存歯の数が少ないと脳に影響が出る
東北大学の研究で、認知症と高齢者の歯の残存数の関連が明らかになっています。
健康な人の歯は平均14.9本の歯が残っていたのに対し、認知症の疑いのある人では9.4本という結果が出ており明らかな差が出ています。また、残っている歯が少ないほど思考や意志の機能を司る前頭葉、学習能力や記憶力などに関わる海馬などの容積が少なくなっていたことが分かりました。
この結果から歯が無くなると脳が刺激されなくなることや脳の働きに影響が出てしまうということが明確になったのです。
歯で認知症予防
歯と脳には深い関わりがあることがわかりました。歯を健康に保つことが、認知症のリスクを下げ健康を維持することに繋がります。
歯を治療する
アルツハイマー型認知症の方の口の中の状態の多くが、歯が無くなっています。歯がないので長い間よく噛んで食べることができていなかったと考えられます。歯が無ければ歯根膜も無くなるので脳に刺激が伝達されません。
しかし歯を治療することで記憶力が回復するケースもあります。噛み合わせが悪いまま放置するのではなく、しっかりと噛むことができるように治療することで記憶力が回復する可能性が高まるのです。
歯に代わる入れ歯・インプラントなどの治療を行えば歯と同様の働きをしてくれます。しかしただ入れ歯を入れるだけでは十分とは言えません。北海道の病院の調査では入れ歯が合っていない人全てが認知症だったという報告があります。その人に合った入れ歯を使用し、正しく咀嚼することが大切なのです。
トレーニングガムを利用する
せっかく歯があってもしっかりと噛むことができなければ脳に刺激が伝達されません。
食事の際にしっかりと噛むことが大切ですが、ガムを噛むことも有効とされています。市販のガムよりも硬くて噛みごたえのある歯科用ガムを噛むと良いでしょう。ガムを噛むことでリラックス効果が高まり集中力が回復します。
トレーニングガムは歯科で販売されていますが、市販のガムでも脳に刺激を伝達する効果はありますので認知症予防を意識して噛みましょう。
最後に
認知症になってしまった人は、自分で自分の服のボタンもかけられなくなる程に症状が悪化してしまう場合があります。認知症が進行すると自分で歯磨きをする事もできなくなっていきます。家族や介護職員が歯磨きを補助する事もあるようですが、本人が嫌がってしまい、うまくいかないケースも多々あるようです。
「認知症で歯磨きできなくなり、口内環境が悪化し、それがさらに認知症を悪化させてしまう」といった悪循環に陥ってしまう前の、早期治療が望まれます。
歯がなくなってしまったり口の中に違和感があるまま放置することは、口腔内の健康だけでなく全身や脳の健康を脅かすことになるのです。定期的に歯科検診を受け、歯を健康に保ち脳を活性化させましょう。