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薬剤による顎骨壊死とは?~薬と歯科治療~

骨粗しょう症や悪性腫瘍(がん)の骨転移に対して非常に効果が高いことから使用されている薬が、顎骨壊死という症状を招くことをご存知でしょうか。

骨粗しょう症は50歳以上の女性の3人に1人がかかっていると言われている、加齢やエストロゲン欠乏などの影響で骨密度がスカスカになることで強度が低下し、骨折するリスクが高くなる病気です。

悪性腫瘍は様々な部位に発症するがんのことです。なんと日本人は一生のうちに2人に1人が何らかのがんにかかるといわれています。

万が一骨粗しょう症や悪性腫瘍を発症した際には、効果の高い薬を使用したいと思うのは当然のことです。しかし非常に効果的な薬でも、使用する前にリスクを知っておく必要があります。

今回は薬剤による顎骨壊死について詳しくお伝えしたいと思います。顎骨壊死を発症するのは非常に稀ですが、身近な病気に使用されている薬や歯科治療と深い関わりがあるため、この機会に確認しておきましょう。

顎骨壊死とは

顎骨壊死とは、顎の骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が腐ってしまう状態のことを言います。顎の骨が腐ってしまうことで、口の中にもともと生息している細菌による感染が起こり、顎の痛みや腫れ、膿が出るなどさまざまな症状が現れます。

近年ではビスホスホネート系薬剤、抗がん剤、がん治療に用いるホルモン剤、副腎皮質桂ステロイド薬などによって顎骨壊死を発症したことも報告されており、決して無視できない問題となっています。

ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死

特に注目されているのがビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死との関連性です。

ビスホスホネート系薬剤は、骨粗しょう症や悪性腫瘍(がん)の骨転移などに対して非常に有効な薬であるため、多くの方々に使用されています。

ビスホスホネート系薬剤には、内服薬と注射薬があり、内服薬は骨粗しょう症の治療に、注射薬は悪性腫瘍の骨への転移、悪性腫瘍による高カルシウム血症の治療に用いられることが多いです。ビスホスホネート系薬剤は破骨細胞に作用し、過剰な骨吸収を抑えることで骨密度を増やす作用があるため、骨粗しょう症や悪性腫瘍に有効とされています。

ビスホスホネート系薬剤を使用している間に、局所への放射線治療、口腔内の不衛生、抜歯などの歯科処置などの条件が重なると、極まれに顎骨壊死が生じることがあります。歯科治療においては、抜歯だけでなく歯周病治療やインプラント治療などを契機に骨が露出することがあります。

ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死の場合、歯ぐきの部分の骨が露出することが多いです。症状が無い場合もありますが、感染が起こることによって顎の腫れ、膿が出る、痛み、歯のぐらつき、下唇の痺れなどの症状が現れる場合もあります。

欧米ではすでに2500例を超える顎骨壊死の報告があり、注射薬で0.8~12%、内服薬で10万人あたりに0.7件の発生頻度となっています。いずれにしても抜歯を行った場合に増加することが報告されています。

顎骨壊死が生じる可能性が高まるのは?

ビスホスホネート系薬剤を用いた治療を受けている際に下記のような症状がある場合には注意が必要です。

  • 口の中に痛みがある
  • 抜歯後の痛みがなかなか治まらない
  • 顎が腫れてきた
  • 歯がぐらついて自然に抜けた
  • 歯ぐきに白や灰色の硬いものが見える

ビスホスホネート系薬剤の投与単体でも顎骨壊死が生じるケースもありますが、抜歯・歯周病・インプラントなどの外科的な歯科治療、悪性腫瘍に対する化学療法やホルモン療法、副腎皮質ステロイド薬の使用、顎付近への放射線治療などの治療を受けている場合に生じやすいということが分かっています。

また、このほかにも喫煙や飲酒なども顎骨壊死の危険因子になることも明らかになっています。

もし顎骨壊死が始まったら、効果的な治療方法がないのが現状です。顎骨壊死が広がってしまった場合は壊死した組織を含めて顎を切除しないといけない場合もあります。歯科治療が必要になった場合には、1年間以上ビスホスホネート系薬剤の使用を中止していると自然治癒するケースもありますが、ご自身の判断で使用を中止してはいけません。ビスホスホネート系薬剤の代わりになる薬を処方してもらうなど、処方医との相談が必要になります。

顎骨壊死を引き起こさないために

ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死は、現在のところは顎の骨に限られています。しかし一度発症すると抜本的に治療する方法が無いため、日頃からの予防が非常に重要となります。

顎骨壊死は口腔内の衛生状態が悪化すると生じやすいということも分かっています。そのため、ビスホスホネート系薬剤を用いた治療を受けている患者さんは、歯科医院にて定期的にクリーニングなどで歯石を除去し、歯や歯ぐきの状態を確認した上で適切なブラッシング法の指導を受けることが必要不可欠です。

歯科医院を受診する際には、必ずビスホスホネート系薬剤を用いた治療を受けているということを必ず担当の歯科医師に伝えましょう。ビスホスホネート系薬剤の投薬中に歯科処置が必要となった場合には、処方の変更や中止ができるのかどうかを処方医に確認する必要があります。

中にはビスホスホネート系薬剤と知らずに服用している方もいらっしゃるので、まずはご自身が使用している薬が一体どのような薬なのかをしっかりと確認しましょう。

ビスホスホネート系薬剤を用いる治療をする前に、歯科医院にて口腔検査を行い、歯周組織の健康状態を良好にしておくと安心です。

まとめ

今回ご紹介したビスホスホネート製剤などの薬剤による顎骨壊死は必ず起こるものではありません。ただし、副作用に気づかずに放置していると症状が重くなり、健康に悪影響を及ぼすことがあります。

薬剤によって顎骨壊死を発症するのはごく稀なケースではありますが、効き目の高い薬であることから治療に用いていることが多いため、顎骨壊死について知らないまま使用するのは非常に危険です。骨粗しょう症や悪性腫瘍は決して珍しい病気ではないため、万が一骨粗しょう症やがんを発症した場合、治療に使用している薬にどのようなリスクがあるのかをしっかりと確認しておくことが重要です。

万が一口の中に顎の腫れ、痛み、歯茎に白や灰色の硬いものがあるなどの異常がでた場合には早急に担当の医師や歯科医師に連絡しましょう。

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